故人の預貯金の無断使込み?相続における使途不明金の問題と解決法

相続における使途不明金とは

故人が亡くなって相続が発生すると、その遺産を相続人で分けるために、原則として、遺産分割協議という話し合いを持つこととなります。

遺産分割協議をするためには、被相続人(故人)の遺産が何でどれくらいあるのか、つまり遺産内容と総額の把握が必要となります。

ところが、被相続人の資産を管理していた相続人の一人(同居の親族など)が、他の相続人に開示した遺産総額が思ったより少ないということがあります。


不審に思った相続人の一人が、相続人としての立場で被相続人の預金口座がある金融機関に口座の履歴の開示請求をしたところ、どうやら遺産の使い込みがあったらしいということが判明する場合があります。

これが、相続における使途不明金の問題です。通常、事態は紛争に発展していると考えられるため、遺産分割調停の前提問題となることが多いでしょう。

以下、遺産分割調停を申し立てている場合を想定して、使途不明金問題の解決方法について解説します。

相続開始前の使途不明金の解決方法

相続開始前、即ち故人の生前に、故人の預貯金が勝手に引き出されて使い込みをされたような場合、対処の方法は3つあります。

被相続人の贈与の意思ありのケース

故人の預貯金の引き出し、使い込みがあったといっても、故人が生前に同居の相続人に財産の管理を任せて通帳の暗証番号を教えていたり、財産の処分権を与えていたような場合は、故人から預貯金を引き出した相続人に対して、贈与があったと整理できることがあります。

この場合、預貯金の引き出しは適法な行為となり、故人の預貯金を引き出した相続人の特別受益の問題となります。

特別受益の制度というのは、被相続人から、遺贈を受けたり、結婚等や生計の資本として贈与を受けた場合に、その金額を遺産総額に含める計算を行い、かつ、受贈した相続人の相続分から当該受贈額を差し引くというものになります。

簡単に言うと、預貯金の使い込みをした相続人が遺産を事前に取得したものとして、遺産分割の計算を行うこということです。

預貯金等を無断で引き出し処分していたケース

預貯金を無断で引き出していた、つまり故人に贈与の意思がなかったようなケースには、次の2つの解決方法があります。

無断引出しされた預貯金等を遺産に含めて遺産分割する方法(民法906の2)

かつては、遺産分割調停において、使途不明金がある場合は無断で処分された後の残りの遺産を対象にして遺産分割をするしかありませんでした。

つまり、無断で預貯金を引き出すという違法行為をした相続人が多額の財産を得て、真面目な相続人の取り分が少なくなるという現象が起きて問題になっていたのです。


そこで、平成30年の民法改正で、新たに906条の2という規定が設けられました。

この条項により、遺産の(無断)処分をおこなった相続人以外の相続人が合意することにより、(無断)処分された財産が遺産分割時に、遺産として存在するものとみなすことができるようになりました。

つまり、上記のような預貯金の無断引出しをした相続人の「やり得」を防ぐことができるという訳です。


ただし、この906条の2の規定については、被相続人の財産の(無断)処分をした相続人を客観的に認定することができる場合に限られます。(当該相続人が自認している等)

言い換えると、遺産の無断処分があったが、だれがやったのか分からない、やったと思われる相続人が否認しているというような場合には、この906条の2は使えないということになります。

不法行為、不当利得として民事訴訟を提起す方法

上記の民法906条の2が使えない場合には、不法行為、不当利得があったとして民事訴訟を提起する方法を選択することとなります。

つまり、故人の預貯金の無断引出しを違法行為であるとして損害賠償請求をしたり、法律上根拠のない遺産の取得であるとして不当利得返還請求をするというものになります。


不法行為として成立するためには、ただ単に被相続人の預貯金を無断で引き出したということでは足りず、その相続人が被相続人の預貯金の口座を管理している立場を利用して、自分が使うために引き出したり(領得)隠したり(隠匿)することが必要です。

一方、不当利得としては、相続人が「無断で」被相続人名義の預貯金を引き出した時点で成立していると考えられます。


不法行為や不当利得として訴訟を提起する場合は、管轄の簡易裁判所又は地方裁判所に訴状を提出して行うこととなります。

使途不明金が判明しない場合

これまで解説した解決方法はあくまで使途不明金が判明している場合であるという前提でした。

一方で、そもそも使途不明金があるのかどうか、判明していない場合はどうなるのでしょうか。例えば、遺産分割調停において、相続人の一人が「他にも遺産はあるはずだ」と言って譲らない場合です。

そのような場合、遺産分割調停は使途不明金がないものとして続行されるでしょう。

どうしても、使途不明金にこだわる場合は、上記の不法行為又は不当利得による民事訴訟を提起するしかありません。


以上、相続における使途不明金の問題について解説しました。

遺産分割調停の申立てや使途不明金問題での民事訴訟の提起は豊中相続相談所(豊中司法書士ふじた事務所)にご相談ください。

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