相続土地国庫帰属の書面審査、実地調査のポイントと申請上の注意点について解説

今回は、相続土地国庫帰属申請における書面審査、実地調査のポイントと申請上の注意点について、施行通達に基づいて解説します。

なお、申請書の添付書面に関する解説については、こちらをご覧ください。

相続土地国庫帰属の要件と審査

相続土地国庫帰属が認められるためには、承認申請の却下事由に該当しないこと、及び不承認となる事項について該当していないことが必要です。(詳しくはこちら

この要件を満たしているかどうかは、法務局に提出された申請書類と法務局の担当者による実地調査により審査されることとなります。

また、書面申請においては、添付書類からだけでは判断ができない事項については、法務局から関係機関へと照会文書が出されて、資料提供が実施されることとなります。

以下、法務局による書類審査、実地調査の運用について通達からピックアップし、申請上のポイントも解説します。(審査・申請上のポイントが複雑ではない要件については、解説していませんのでご注意ください。)

所有権の取得原因

相続土地国庫帰属申請ができるのは、相続又は相続人に対する遺贈によって対象土地を取得した者に限られます。

対象土地の登記記録から、所有権の取得原因が「相続」である場合は、申請人としての適格性があると判断されます。

相続登記がなされていない場合は、相続を証する書面(戸籍、遺産分割協議書等)を添付して申請することによって、相続によって対象土地を取得したかどうかが審査されます。

また、登記記録上の対象土地の所有権の取得原因が「遺贈」である場合は、これだけでは相続人に対する遺贈であるかどうかが判明しないため、他の証明書面(遺言書や戸籍類等)を添付して申請することとなります。

担保権又は使用収益を目的とする権利の有無

担保権又は使用収益を目的とする権利が設定されている土地は、国庫帰属申請の却下事由に該当してしまいます。

対象土地の登記記録を確認して、抵当権等の担保権、又は地上権、地役権、賃借権、買戻権、譲渡担保、差押等の設定の有無を確認することとなります。

農地に係る権利設定の有無、入会権、経営管理権の設定、森林経営の委託契約等の有無については、申請後に法務局から関係機関への照会がされることによって確認されるため、申請サイドでの添付書類の準備は不要です。

土壌汚染対策法の特定有害物質に汚染させている土地か否か

申請後に、法務局から都道府県庁などの土壌汚染対策の管轄官庁への照会が行われ、特定有害物質に汚染されているか確認されます。

この照会により、対象土地が汚染されている可能性があると疑われる場合には、申請者に特定有害物質により汚染されていないことを証する書面(上申書)の提出が求められることとなります。

この上申書によっても、汚染の可能性が払しょくできない場合には、申請者に対して、土壌汚染対策法に基づく指定調査機関等による調査報告書の提出が求められることとなります。

実地調査においては、土地に明らかな異常(土地の変色や異臭)がないかが確認されることとなります。

境界紛争、所有権の存否、帰属、範囲の紛争の有無

境界紛争などの所有権の存否、帰属、範囲に争いのある土地については、承認申請の却下事由に該当してしまいます。

書面審査としては、まず、申請書に添付されている土地の図面写真・境界点の写真と、法務局の公図や地積測量図等とに齟齬がないか確認されます。

次に、申請後に管轄法務局から、対象土地の隣接地所有者に対して、境界紛争がないかどうかを確認する通知書が発送されることとなります。

この通知書には、上記の土地の図面や写真、境界点の写真などの申請書添付書類が同封されます。

隣接地所有者から回答がない場合や、異議はあるが理由が記載されていないような場合には、再通知をし同様の回答がなされたことをもって、境界紛争がないものと判断されることとなります。



実地調査においては、申請書に添付されている図面、写真と現地を照合し、境界標を確認することとなります。

また、上記の隣接地所有者への通知で2回とも返信がなかった場合や異議の内容が明らかでなかった場合などにおいては、隣接地に所有者または占有者が存在し聴取が可能な場合は、境界に関する認識のヒアリングが行われることとなります。

隣接地が更地である場合等、ヒアリングが難しいときは、申請者や隣接地所有者、近隣住民に対するヒアリングが必要に応じて実施されることとなります。

崖がある土地で管理に過分の費用、労力を要する土地か否か

崖のうち勾配が30度以上であり、かつ、高さが5メートル以上のもので、管理に過分の費用、労力を要する土地は、国庫帰属が不承認となります。

この要件に該当するかどうかは、実地調査により、人の生命等に被害を及ぼす、又は隣接地に土砂が流れ込み被害が生じる可能性があるため、擁壁工事を実施する必要が客観的に認められるかにより判断されることとなります。

なお、勾配が30度以上であり、かつ、高さが5メートル以上かどうかは、法務局の実地調査において、レーザー距離計等の機器により、崖の上端と下端を特定して、角度及び垂直距離を測定することによって確認されることとなりますので、申請者サイドも事前に確認しておくこととなります。

土地に通常の管理、処分を阻害する工作物、車両、樹木等がないか否か

申請対象土地に、通常の管理や処分を阻害する工作物、車両、樹木その他の有体物がある場合、国庫帰属は不承認となります。

通達には、阻害する有体物の具体例が例示されていますので、以下に記載します。

・果樹園の樹木

・民家、公道、線路等の付近に存在し、放置すると倒木のおそれがある枯れた樹木や枝の落下等による災害を防止するため定期的な伐採が必要な樹木

・放置すると周辺土地に侵入する恐れや森林の機能発揮に支障を生じるおそれがあるため定期的な伐採が必要な竹

・過去に治山事業等で施工した工作物のうち、補修等が必要なもの

・建物に該当しない廃屋

・放置車両

鳥獣、病害虫等により周辺土地の人や農産物、樹木に被害が生じる恐れがあるか否か

鳥獣、病害虫その他の動物が生息する土地であって、当該動物により当該土地又はその周辺の土地に存する人の生命若しくは身体、農産物又は樹木に被害が生じ、又は生ずるおそれがあるもの(その程度が軽微で土地の通常の管理又は処分を阻害しないと認められるものを除く。)は、国庫帰属が不承認となります。

書面調査では、添付書類の写真を確認し、法務局からの照会により関係機関から提供を受けた資料も確認されることとなります。

実地調査では、この要件に該当する可能性がある場合は、国庫帰属後の管理予定庁の同行が求められることとなります。

なお、本要件は、鳥獣、病害虫その他の動物により対象土地又はその周辺土地の人の生命、身体、農作物又は樹木に被害が生じ、又は生じるおそれがあることについて、具体的な被害情報や具体的に被害が発生する客観的な情報がある場合に限って該当することとなりますので、要注意です。



以上、相続土地国庫帰属申請の書面審査、実地調査の運用と申請上のポイントについて、重要なところをピックアップして解説しました。

相続土地国庫帰属申請は、豊中相続相談所(豊中司法書士ふじた事務所)にご相談ください。

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