借金は放棄するが資産を相続する!?相続放棄と遺贈の併用と問題点について
今回は、相続放棄をして借金は引き受けないものとしつつ、故人(被相続人)の遺言により自宅や預金などのプラスの遺産を遺贈で受け取るということができるのか否か、解説します。
想定事例
父であるA(被相続人)が亡くなりました。Aは多額の借金があったのですが、一方で無担保で自宅や宝石など高価な資産も残しました。
父Aは遺言を書いており、相続人となる母Bと長男である私Cに、自宅や宝石などの資産を遺贈すると記載されています。
資産を相続できるのはありがたいのですが、父Aの多額の借金を負いたくはありませんので、相続放棄をしようと思っています。
遺言で資産の遺贈を受けつつ、相続放棄して借金は承継しないということはできるのでしょうか?
想定事例に対する回答
法律の手続的には、おっしゃるように遺贈を受けつつ、相続放棄をするということは可能ではあります。
しかし、相続放棄をすることによって、回収ができなくなって利益を害された債権者がいる場合は、詐害行為取消権の行使や権利の濫用であるといった主張を裁判によりなされて、遺贈が取り消されたり無効になったりするリスクがあります。
プラスの遺産の取得と相続放棄の関係
相続において、プラスの遺産を取得するスタンダードな方法には、遺産分割協議や包括遺贈(すべての遺産を●●に相続させる、という遺言)があります。
これらの手法を採ると、プラスの財産を取得しますが一方でマイナスの財産(借金などの債務)も承継することとなります。
債務の相続をしたくない場合は、相続放棄や包括遺贈の放棄を行うこととなりますが、そうするとプラスの遺産の相続も併せて放棄することになってしまいます。
ところが、遺贈(遺言による贈与)や死因贈与(死亡を条件とする生前の贈与契約)をした場合は、相続放棄と効果を併存させることが可能にはなります。
以下、その場合の問題点について、解説します。
詐害行為取消や権利の濫用となるリスク
相続人に対して、遺贈や死因贈与を行ない、かつ、相続放棄をして借金など債務を逃れる行為を行った場合ですが、相続放棄をした相続人以外の相続人が相続を承認して、被相続人(故人)の借金を弁済してくれるような場合には、特に問題となることはないものと思われます。
しかし、全ての相続人が放棄して、プラスの遺産も全て遺贈がされた場合のように、債権者が害されるようなケースでは、法律上の問題が生じます。
つまり、債権者が詐害行為取消権という権利を行使して、その遺贈や死因贈与が取り消される可能性が生じます。また、借金逃れのための遺贈や死因贈与が権利の濫用であると主張されて、無効となる可能性もあるでしょう。
いずれにしても、訴訟で争うこととなりますので、そういったリスクは回避するに越したことはありません。
なお、今回の想定事例とは事案が異なりますが、妻が多額の借金を負っているケースで、亡夫の遺産を相続人たる妻が取得せずに、他の相続人である子供たちに取得させる遺産分割協議をしたことが詐害行為に該当するとして、取り消された最高裁の判例があります。
いずれにして、法的な手続きで良いとこ取りをするのは、信義誠実な態度はないので問題があるということでしょう。
以上、遺贈や死因贈与と相続放棄の併用時の問題について解説しました。
遺贈のための遺言書作成や贈与の登記、相続放棄の手続については、豊中相続相談所(豊中司法書士ふじた事務所)にご相談ください。