生前贈与のメリットとは?
万が一の相続対策の一つに、生前贈与があります。生前贈与には、大きく4つのメリットがありますので、それぞれ解説します。
①生前に自分の財産を特定の人に譲ることができる
自分に万が一の事があり、相続が発生してしまった場合は、法律に定められた相続人が遺産を取得することとなります。しかし、生前贈与を行っておくことで、自分が決めた特定の人に、財産を譲ることが可能となります。
②相続の際に協議の対象となる遺産を減らしておくことができる
自分に万が一の事があり、相続が発生してしまうと、残された法定相続人間で、遺産分割協議という話し合いを行い、遺産を誰がどれだけ取得するかを決める必要が生じます。相続人間の仲が疎遠な場合、協議が難航することも予想されます。
生前贈与を行って、事前に遺産を減らしておけば、相続人間で遺産分割協議をする際に生じる紛争リスクを減少させることができます。
③相続税の節税対策になる
遺産が多額で相続税がかかってしまう方については、贈与税の控除を上手く使いながら前贈与をしておくことで、相続税を節税することができます。贈与税の控除の特例はいくつかありますが、ポピュラーなものに、年間110万円の基礎控除があります。
これは一例ですが、110万円の基礎控除を上手く使って、毎年少しずつ贈与をしておくことで、遺産の額が小さくなり、相続税を減らすことが可能です。
他の例としては、相続時精算課税の制度を上手く使って、収益不動産を生前に贈与することで、家賃収入による自分の遺産の増加を止め、相続税の節税に繋げるという方法もあります。(制度については、後述します。)
贈与税がかからない・節税する方法
上記のような、相続税の節税などの生前贈与のメリットを受けるためには、特例を上手く活用して、贈与税を回避することが重要となります。 贈与税を回避するための原則的な方法は、次の①~⑦の税制度の特例7つと、民事信託を活用する⑧などになります。
- 年110万円の基礎控除内で贈与する
- 相続時精算課税の制度を利用して贈与する
- 夫婦間の居住用不動産の贈与による配偶者控除(2000万円)の活用
- 住宅取得等のための資金の贈与の非課税制度(500万~3000万円)の活用
- 教育資金の一括贈与の非課税制度(1500万円)の活用
- 結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度(1000万円)の活用
- 特定障害者等に対する贈与税の非課税制度(3000万 or 6000万円)の活用
- 民事信託の活用
(※税制度の詳細については、弊所の提携の税理士が相談に対応いたします。)
(※⑧の民事信託の活用については、スキームが複雑となりますので、別途お見積致します。)
①の基礎控除内での贈与の注意点
原則としては、基礎控除を上手く利用し、毎年110万円ずつ贈与すれば、無税での贈与が可能となります。(これを「暦年贈与」といいます。)
しかしながら、例えば、毎年110万円を15年にわたって贈与した場合に、最初から1650万円(=110万円×15年)の贈与をするつもりがあったと税務署に判定されると、「連年贈与」となり、1650万円に課税され、さらに無申告加算税や延滞税が課されるリスクが生じます。
この「連年贈与」とならないためには、贈与契約書をきちんと作成したり、毎年少しばかりの贈与税の申告を行っておくなど、細かな注意点がありますのでお気を付けください。(※詳細は、弊所提携の税理士と司法書士が連携して対応します。)
②の相続時精算課税の有効活用について
相続時精算課税の制度は、60歳以上の父母又は祖父母から、20歳以上の子又は孫に対する贈与の際に利用ができます。
この制度を利用すると、生前贈与が2500万円まで無税となり、超える部分については20%の贈与税の課税となります。贈与の対象となった財産は、相続税の計算上、遺産の額に加算されます。また、事前に納めた贈与税が相続税から控除されることとなります。
仮に、財産総額が、相続税の基礎控除の範囲内(=3000万+相続人の数×600万)であれば、無税で生前贈与を行い、相続税も無税となる可能性が高くなります。
例えば、ご自宅の不動産や収益物件を、生前に子や孫に贈与しておきたい、といったケースで上手く節税ができる可能性があります。 (詳細なシミュレーションは、弊所の提携税理士が行いますので、まずはご相談ください)
遺留分侵害額請求には要注意
上述のように、様々なメリットがある生前贈与なのですが、法定相続人の遺留分を侵害していないかどうかには、十分気を付ける必要があります。遺留分というのは、法定相続人(親や祖父母のみが相続する場合を除く)に保障されている最低限の相続分(取り分)のことです。
分かりやすく単純化した事例でご説明してみたいと思います。
例:父Aが亡くなり、相続人は妻Bのみという場合に、父が、遺産の全てである自宅マンション(2000万円相当)を、死亡の3か月前に知人Cに生前贈与していた。
→相続で何も取得できなかった妻Bの遺留分が侵害されていることとなります。この場合の妻Bの遺留分を計算すると、遺産の1/4になり、Bは知人Cに対して、500万円を支払え、と請求できることになります。
遺留分の侵害は、生前贈与や遺贈(遺言による贈与)によって起こり得ますから、十分に司法書士などの専門家に相談の上、実行されることを強くお勧めします。
(※遺留分の計算は、実際は複雑ですので、詳しいことは弊所の司法書士にご相談下さい)
贈与契約書の作成と所有権移転登記(名義変更)、贈与契約書の作成の必要性
生前贈与を行うに当たっては、贈与契約書の作成を、強くお勧めします。というのも、民法に、書面によらない贈与は・・・解除することができる、という規定があるためです。
口頭の約束だけで贈与をしてしまうと、後日、やっぱり辞めた(解除)をされてしまうリスクがあります。また、贈与契約書作成の際には、相続の際の持戻しの免除の意思表示をしておくかどうかを併せて検討しておいた方が良いでしょう。
かみ砕いて説明すると、生計の資本に当たるような生前贈与をすると、贈与者が亡くなって相続が発生した際には、生前贈与した額を遺産に含める計算(=持戻し)をすることが原則となるところ、意思表示によって、遺産に含めないようにする(=持戻しの免除)こともできるのです。(※持戻しをした場合と免除した場合のシミュレーションについて、詳しくは弊所の司法書士にお尋ね下さい。)
以上のように、契約書の作成にも色々とポイントがあります。生前贈与を実行する際は、お互いのために、司法書士などの専門家に依頼して契約書を作成しましょう。
不動産を贈与した場合は、登記申請(名義変更)を忘れずに
土地建物やマンションといった不動産を生前贈与する場合は、法務局(登記所)に所有権移転登記(名義変更)を申請しておく必要があります。
登記申請は、思ったよりも複雑ですし、契約書(登記原因証明情報)の作成も必要になりますから、登記の専門家である弊所の司法書士にご相談ください。
贈与による所有権移転登記(名義変更)を申請する場合に、ご準備頂く書類は、標準的には以下のようになります。
- 対象物件の権利証(登記済証又は登記識別情報)
- 贈与者様の印鑑証明書(発行後3か月以内)
- 受贈者様の住民票
- 対象物件の固定資産税の課税明細書(毎年5月頃に市役所から届くもの)
- (前提となる住所変更登記が必要な場合)贈与者様の住民票又は戸籍の附票
上記の書類のほか、登記申請に必要なる登記申請書や登記原因証明情報(契約書)、委任状などは、司法書士が作成しますので、ご安心ください。なお、贈与による所有権移転登記には、対象物件の固定資産税評価額の2%の登録免許税がかかりますので、ご注意ください。
例:2000万の土地の贈与・・・登録免許税額は40万円