贈与契約書に盛り込むべき「持戻し免除」の意思表示とは?解説します。
今回は、生前贈与をする際に作成する贈与契約書に盛り込むかどうかを検討するべき「持戻し免除」の意思表示について解説します。
生前贈与の手続きと注意点
弊所には、様々な理由で不動産を生前贈与したいとのご相談が多く寄せられます。
例えば、判断能力がしっかりしているうちに、自宅の名義を長男のものにしておいてあげたい、であるとか、相続税対策で子に生前贈与しておきたい、などといった具合です。
生前贈与を行うとなれば、贈与契約書を作成し、不動産が対象であれば、所有権移転登記を申請することとなります。この手続き自体は、司法書士であれば日常的に対応しているものになります。
司法書士は、贈与者と受贈者の双方と面談して、本人確認及び意思確認を行い、登記書類や契約書に押印を頂き、登記申請を実行します。
ただし、ここで注意しなければいけないのは、税金の話になります。
例えば、不動産の贈与をしたのであれば、受贈者に贈与税が課税される可能性がありますし、不動産取得税が課税される可能性もあります。
一方で、相続時精算課税という制度を上手く使えば、贈与税を抑えて贈与できるケースもあります。
贈与の実行時には、税理士への相談も併せて行うことが重要となります。弊所にご相談いただいた場合は、弊所から税理士をご紹介しますので、ご安心ください。
生前贈与と特別受益
生前贈与を行う際に、気を付けなければならない論点としては、特別受益対策が挙げられます。
特別受益とは、被相続人(故人)から、遺贈を受けたり、結婚や養子縁組、生計の資本として贈与を受けた相続人がいる場合に、遺産額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなして、その遺贈又は贈与については、相続の前渡しであったとして法定相続分から差し引くという制度になります。
分かりにくいので、事例で説明します。
~想定事例~ 被相続人Aは、生前に、長男Bに対して生計の資本として400万を贈与していました。次男Cには、結婚のときに200万を贈与していました。
Aの相続人は、妻Dと長男Bと次男Cの3人です。
Aが亡くなった際の遺産は、1800万の自宅と1200万の預貯金のみです。
この想定事例の場合の遺産総額は、一見すると3000万のようですが、生前の贈与が特別受益に該当するため、遺産に加算します。
3000万+400万+200万=3600万 この計算を「持戻し」といいます。
これを法定相続分(妻1/2、長男1/4、次男1/4)で分配すると、妻Dは1800万、長男Bは900万、次男Cは900万の取り分となります。
ただし、長男Bと次男Cは、特別受益となった贈与を生前に受けているので、これを差し引きします。
長男Bの取り分 900万-400万=500万 次男Cの取り分 900万-200万=700万
となります。これが、特別受益の計算です。
つまり、特別受益は、相続の前渡しとして計算されるため、受益者の被相続人の死亡時の遺産からの取り分は減ることとなります。
不動産の生前贈与と持戻し免除の意思表示
不動産を生前贈与すると、通常は、上記の特別受益に該当することとなります。
もちろん、贈与者が亡くなった際に、遺産分割協議が円満に成立すれば、何の問題もありません。
しかし、相続で紛争となり、遺産分割調停や審判が行われるようなケースとなってしまった場合は、特別受益が考慮されることとなります。
もし、生前贈与した不動産が特別受益とならないようにしたい、持戻し計算をしないようにしたい、というご希望がある場合は、「持戻し免除」の意思表示をするという方法があります。
持戻しの免除の意思表示について、形式面でのルールは特にありませんので、何らかの書面なりデータで、対象の贈与について持戻し計算を免除する、との意思が記載されていれば構いません。
ただし、紛争となった場合に備えて、贈与契約書や遺言の中に、持戻し免除の意思表示を組み込んでおいた方がいいでしょう。
弊所では、不動産の生前贈与のご依頼者様に対しては、特別受益に該当する可能性と持戻し計算とその免除についてご説明し、必要に応じて、持戻し免除の意思表示を、贈与契約書に盛り込む対応をしております。
今回は、生前贈与をする際に作成する贈与契約書に盛り込むかどうかを検討するべき「持戻し免除」の意思表示について解説しました。
贈与契約書の作成や、不動産の贈与による所有権移転登記については、豊中相続相談所(豊中司法書士ふじた事務所)にご相談ください。