母の面倒を見る義務を課す?負担付遺贈(遺言)と文例、取消しについて解説
今回は、遺された母の面倒を見るという負担を付した遺贈(遺言による贈与)と文例、その取消しについて解説します。
遺贈とは
まず、遺贈というのは、遺言によって、特定の遺産を指定の者に対して贈与することを言います。遺言書は、遺言者の死亡のときに効力を生じますから、死亡時に遺贈の効力も生じます。
遺贈は、原則として、相続人以外の第三者に対して行うことが想定されますが、法定相続人に対して遺贈することも可能です。
例えば、遺言者Aが、遺産のうち自宅不動産は長男Bに遺贈する、との遺言書を残して亡くなったとします。
この場合、自宅不動産の所有権をAからBに移転する、所有権移転登記を申請することとなりますが、その登記原因は「令和●年●月●日遺贈」となります。
負担付遺贈とは
負担付遺贈とは、遺贈者(遺言による遺贈をする者)が受遺者(遺贈によって遺産を受け取る者)に対して、遺産を取得させる代わりに一定の義務を負担させる形式の遺贈をいいます。
例えば、父Aが、遺言書によって、自宅不動産を長男Bに遺贈し、その負担として、遺された母Cと同居し、身の回りの世話をするようにとの負担を付す場合です。
負担付遺贈を受けた方は、遺贈の価額を超えない限度で、負担した義務を履行する責任を負います。(民法1002条1項)
もし、この負担が重いと感じるようであれば、遺贈を放棄することもできます。遺贈を放棄すると、遺贈の対象となった遺産の取得も放棄しますし、負担も追わないこととなります。
なお、法定相続人に対して「相続させる」旨の遺言(特定承財産承継遺言)にも、遺贈と同様に、負担を付することができます。
負担付遺贈の文例
母の扶養を負担とする負担付遺贈
第●条 遺言者は、次条に定める負担付で、次の不動産を遺言者の長男B(昭和●年●月●日生)に遺贈する。
(不動産の表示 省略)
第●条 受遺者Bは、前条の遺贈を受ける負担として、遺言者の妻Cの生存中、前条の建物に無償で居住させ、同人に対して、生活費として、毎月末日限り月額金●●万円を支払わなければならない。
未払債務の支払いを負担とする負担付遺贈
第●条 遺言者は、次項の負担付で、遺言者が相続開始時点で有する以下の預貯金を、遺言者の従姉妹X(昭和●年●月●日生)に遺贈する。
2 Xは、前項の遺贈を受ける負担として、遺言者が相続開始時点において負担する医療費、介護費、公租公課その他一切の未払債務を弁済しなければならない。
負担が履行されない際の遺贈の取消し
では、負担付き遺贈の負担が履行されない場合は、どうなるのでしょうか?
例えば、上記の例で言えば、自宅不動産を取得した長男Bが、同居もせず、母Cの面倒を見ないような場合です。
遺贈の負担が履行されない場合には、当然に、その遺贈(自宅不動産を長男Bが取得すること)が、無効となる訳ではありません。
このような場合は、家庭裁判所にその負担付遺贈の取消しを請求することができます。取消が認められれば、遺贈の対象となった自宅不動産は、長男Bの所有ではなくなるという訳です。
ただし、家庭裁判所に取消しを認めてもらうためには、相応の証拠が必要です。
例えば、「生活費として毎月●万円をCに支給する」など、不履行が明確に判断できるような負担であれば、証拠も集めやすいですし、取消も認められ易いでしょう。
一方で、「妻(母)Cの身の回りの世話をする」などといった漠然とした負担である場合は、長男Bが母Cを虐待したり横領した場合などのような場合には、取消が認められ得るものと考えられます。
以上、遺された母の面倒を見るという負担を付した遺贈(遺言による贈与)と文例、その取消について解説しました。
負担付遺贈など遺言書作成や相続登記については、豊中相続相談所(豊中司法書士ふじた事務所)にご相談ください。