行方不明相続人がいる場合の相続登記~不在者財産管理人制度の利用~

相続登記をしようとしたら、相続人のうち一人が何年も音信不通で、どこに住んでいるかも分からない…。
こうしたご相談は、実はそれほど珍しいものではありません。

  • 兄弟が若いころに家を出たきり、連絡先が全く分からない
  • 家族と疎遠になり、住所も電話番号も不明
  • 海外に渡った家族がいて、その後の消息がつかめない

相続登記の前提となる遺産分割協議は、相続人全員の関与が必要ですので、行方不明の相続人が一人いるだけで手続きが止まってしまいます。

さらに、相続登記の義務化により、「放っておけばそのうち何とかなるだろう」と後回しにしていた相続登記の未了が、違法となるリスクも発生しています。

そこで利用を検討することになるのが、不在者財産管理人制度です。

今回は、この制度を利用して相続登記を進める流れを、一般の方向けに分かりやすくご説明します。


1 なぜ行方不明相続人がいると進まないのか?

相続で不動産の名義を変えるときの基本的な流れは、次の3ステップです。

  1. 戸籍を集めて、相続人を確定する
  2. 相続人全員で遺産分割協議を行う
  3. 協議内容に基づいて相続登記を申請する

このうち、ネックになるのは2.遺産分割協議です。

協議書には、相続人全員の署名・押印と印鑑証明書が必要になりますので、一人でも所在不明の相続人がいると、協議が成立しません。

「みんな納得しているから、行方不明の人のハンコだけ飛ばして出してしまおう」ということはできないのです。

そこで、「行方不明の相続人の権利も守りながら、手続を進めるための仕組み」として用意されているのが、不在者財産管理人制度です。


2 不在者財産管理人とは?

(1)ここでいう「不在者」とは?

法律上の「不在者」とは、

  • 従来の住所又は居所を去り,容易に戻る見込みのない

者のことをいいます。

また、不在者財産管理人の選任の要件として、

  • 不在者の財産の管理人を置いていない

ということも必要となります。

住民票上の住所に行っても住んでいない、親族の誰も現住所を知らない、といった状況が典型例です。

なお、行方不明者の死亡を擬制する「失踪宣告」という制度もありますが、今回は、不在者財産管理人の制度に絞って解説します。

(2)不在者財産管理人は何をする人?

家庭裁判所に選任された不在者財産管理人は、行方不明者の財産を管理するための不在者の代理人となります。

相続の場面では、

  • 行方不明相続人のために遺産分割協議に参加する
  • 他の相続人と協議し、不在者の権利を保全した内容で合意する
  • 必要に応じて家庭裁判所の許可を得る

といった役割を担います。

つまり、行方不明の相続人を「死亡したもの」として扱うのではなく、専門家が不在者の立場に立って代理で手続きに参加することで、協議と登記を前に進めるイメージです。


3 不在者財産管理人選任の流れ

実際の手続きの流れを、簡単にご紹介します。

① どこに申し立てる?

不在者の「従前の住所地又は居所地」を管轄する家庭裁判所に申立てを行います。

申立人になれるのは、

  • 他の相続人
  • 不在者の配偶者
  • 不在者の財産に利害関係を持つ人(債権者等)

などです。実務上は、相続登記を進めたい立場にある相続人が申立人になるケースが多いです。

② どんな書類が必要?

一例ですが、次のような資料を準備します。

  • 申立書(家庭裁判所所定の書式)
  • 不在者と戸籍謄本
  • 不在者の住民票の除票又は戸籍の附票
  • 財産目録
  • 不動産の登記事項証明書や評価証明書、通帳の写し等の不在者の財産に関する資料
  • 申立人の利害関係を証する資料
  • 不在者の不在の事実を証する書面(「宛所に尋ね当たりません」との記載がある郵便物等)
  • (遺産分割協議が目的の場合は)遺産目録、遺産分割協議書案、相続を証する戸籍類一式 等

③ 家庭裁判所での審理・選任

家庭裁判所は、提出された資料や事情をもとに、

  • 本当に行方不明といえるのか
  • 不在者財産管理人を選任する必要があるのか
  • 誰を管理人にするのが適切か

といった点を審理し、不在者財産管理人を選任します。(※大阪地裁の場合、通常、弁護士が選任されます)


4 不在者財産管理人を使った遺産分割協議

不在者財産管理人が選ばれたら、次のような流れで遺産分割協議・相続登記を進めていきます。

(1)管理人が内容を検討する

不在者財産管理人は、選任申立書に添付されている遺産分割協議書案について、不在者にとって不当に不利ではないかどうか検討をします。

場合によっては、

  • 分割案の修正を提案する
  • 不在者にも一定の持分を残す形を求める

など、不在者の権利を守るための調整が行われます。

ですので、選任申立の段階で添付する遺産分割協議書の案では、不在者の法定相続分は確保をする形を取ることが多いでしょう。

(2)家庭裁判所の許可

不在者財産管理人の権限は、不在者の財産の保存・利用・改良に限られています。

遺産分割協議は、不在者の財産の処分に当たるため、不在者財産管理人は家庭裁判所の許可を得てから協議を成立させます。

(3)遺産分割協議書の作成と相続登記

家庭裁判所の許可が出たら、不在者財産管理人が行方不明相続人の代理として遺産分割協議書に署名押印し、他の相続人とともに協議を成立させます。

通常の相続登記の添付書類である、

  • 遺産分割協議書(印鑑証明書付)
  • 戸籍類一式・住民票・評価証明書等・委任状

に加えて、

  • 不在者財産管理人選任審判書
  • 権限外行為の許可書

を添付して、法務局に相続登記を申請します。


5 不在者財産管理人制度を使うメリット・デメリット

メリット

  • 行方不明相続人がいても、相続登記を前に進めることができる
  • 行方不明者の権利も配慮しながら手続が進む
  • 「死亡扱い」にするわけではないので、心理的なハードルが比較的低い

デメリット・注意点

  • 家庭裁判所への申立てや審理に一定の時間と手間がかかる
  • 管理人の報酬の予納や実費など、費用負担が発生する(※不在者に財産がある場合は、予納金の納付が無いこともあります)
  • 行方不明者が戻ってきた場合の説明や関係調整は、やはり必要

「早く相続登記を申請したいが、不在者の権利をないがしろにはしたくない」というご家族にとっては、バランスの取れた現実的な選択肢になりやすい制度と言えます。


6 まとめ~一人で悩まず、まずはご相談を~

行方不明相続人がいる相続は、どうしても「もう無理だ」「自分たちでは手の打ちようがない」と感じがちです。

しかし、法律上は今回ご紹介したような不在者財産管理人制度が用意されており、状況に応じて適切に利用すれば、相続登記を進めていくことが可能です。

  • 「兄弟の一人が何十年も行方不明で困っている」
  • 「相続登記をしろと言われたが、相続人の一人の住所が分からない」
  • 「不在者財産管理人って、うちのケースでも使えるのか知りたい」

このようなお悩みがあれば、ぜひ一度ご相談ください。

当事務所では、相続登記のご相談から、不在者財産管理人選任申立てのサポート、遺産分割協議書の作成、相続登記申請まで、お客様の状況に合わせてトータルでお手伝いしています。

「こんな状態でも、相続登記は可能なのか?」という段階からで大丈夫です。

複雑な相続や行方不明の相続人が絡むケースこそ、早めに専門家に相談していただくことで、将来のトラブルやご家族の負担を軽くすることができます。

不在者財産選任申立書の作成や相続登記については、豊中相続相談所(豊中司法書士ふじた事務所)にご相談ください。

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